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目の前を何だかフラフラと危ない足取りで歩いている学ランの少年を見つけた。

あの後ろ姿は…。

「廉?」

俺は少し足を早め、ソイツの隣に並んだ。

やっぱり廉だ。

「廉?」

もう一度声をかけると、廉は今気づいたとばかりにゆっくりとした動作で顔を上げた。

「あれ?工藤?」

グルグル巻きに巻いていたマフラーから顔を上げた廉の顔が心なしか赤い。

瞳も少し潤んでいるような気がした。

これは…。

「ちょっといいか?」

「え?」

廉の腕をつかんで立ち止まらせ、スッと右手で前髪を掻き上げて額に掌を押し当てた。

「お前熱あるじゃねぇか」

「ん〜、そう?」

自覚がなかったのかきょとん、と首を傾げた廉はいつもに増して可愛らしく、ぐっとくるものがあった。

「早く帰った方がいいな。家まで送る」

「ん〜、大丈夫だよ。俺これから仲間のとこ行くから。それに、家に帰っても誰もいないし…」

「そうか。じゃぁ、俺ん家行くか」

え?とワンテンポ遅れて反応した廉の腕を掴んだまま、俺は自分の家に向けて歩き出した。

有無を言わさず廉を家に入れる。

「心配し過ぎだよ。俺は大丈夫だって」

廉は顔を赤くしたままへらりと笑った。

「どこが大丈夫なんだ。さっきより顔が赤いぞ。熱上がったか?」

ここに連れてくる間、廉はフラフラしたり、ぼぅっとして危うく電柱に突っ込みそうになっていた。

それのどこが大丈夫なんだ、と俺は聞きたい。

部屋に上げて、まったく動く気配のない廉の首元に巻かれたマフラーを外してやる。

「ん。ありがと。でもなんか暑くないこの部屋?」

「だからお前は熱があるって言ってんだろ。俺のベッド貸してやるから大人しく寝ろ」

熱に浮かされてきたのかそう口にした廉を俺はベッドに押し込める。

「わっ!ちょっと待って、工藤」

「ん?どうした?」

「脱ぐ」

は?

いきなり何を言い出すんだ、と呆気にとられた俺の目の前で廉は学ランのボタンを外し始めた。

「廉?」

「ん。」

上着を脱いでワイシャツ一枚になった廉は満足したのか俺に学ランを渡すと、大人しく布団の中に入った。

「はぁ〜。ったく心臓に悪いぜ」

廉が俺をどう思ってるのか知らないが、廉が好きな俺としては今のは思考が停止するぐらいびっくりした。

受け取った制服をハンガーに掛けて、棚の引き出しから体温計を取り出した。

「廉、少し体起こせるか?」

「…ん」

上体を起こした廉に体温計を手渡す。

「熱の他にどっか痛い所とかあるか?」

「う〜、ちょっとだるくて、喉が少し…」

「痛いのか?」

コクリと頷いた廉に、風邪だなと言って立ち上がる。

「工藤?」

潤んだ瞳で見上げる廉はどこか寂しそうな顔をしていた。

「そんな顔すんな。薬買ってくるだけだからすぐ戻る」

計り終わった体温計を受け取り、廉を横にさせて髪を撫でる。

「…ん」

ウトウトと微睡んできた廉におやすみ、と優しく声を掛けて俺は薬を買いに外へ出掛けた。



◇◆◇



「んぅ…」

ごろり、と寝返りをうった額から温くなったタオルが落ちた。

「んっ…?」

ぼんやりと目を開けた廉の横で、額から滑り落ちたタオルを拾って洗面器に浸す。

チャプチャプ

「ぁ…くどー?」

「調子はどうだ?」

「ん、へーき…」

起き上がろうとした廉の背に腕を差し入れて手伝ってやる。

「汗かいたろ?これに着替えろ」

湿っぽくなったワイシャツに気づいた俺は、タオルとTシャツを廉に渡した。

俺は廉が着替えている間にキッチンへ行き、廉が寝てる間に作っておいた卵粥を温め直した。

それを薬の袋と一緒に廉の所へ持っていく。

「何、それ?」

ぶかぶかのTシャツを着た廉は俺の手元にあるものを不思議そうに見てきた。

「薬飲む前に何か腹に入れなきゃマズイだろ」

トレイを自分の膝の上に置き、土鍋の蓋を開ける。

すると、もくもくと湯気が上がった。

「…お粥?」

「そ。これなら少しは食べれるだろ?」

レンゲで一口分掬い上げ、ふぅと息を吹き掛けて冷ましてから廉の口元へ運んだ。

「ほら」

「………///」

「どうした?食わないのか?」

廉は不自然に視線をさ迷わせた。

「別に不味くはないと思うぜ」

差し出したレンゲに口をつけない廉に、俺は一口食べて見せた。

うん、普通だな。

「ほら」

もう一度レンゲにお粥を掬い、冷ましてから差し出した。

「…ぅ///」

「食べなきゃ薬飲めないぞ」

そう言えば廉は恐る恐るレンゲに口をつけた。

「不味くないだろ?」

「うん///」

それを数回繰り返し、半分食べたところで廉はもういらないと首を横に振った。

「次は薬だな」

水の入ったコップと買ってきた薬を渡す。

んく、と薬を飲んだのを確認して空になったコップを受け取る。

「そういや、家に誰もいないって言ったよな?」

「うん。父さんも母さんも仕事で帰って来ないし、悠も明日休みだから今日は友達の家に遊びにいってそのまま泊まるって言ってた」

「じゃぁ、家には帰せないな。廉、今日はここに泊まってけ」

「え?いいよ俺帰る。工藤に風邪がうつったら大変だし、迷惑だろ」

少し寝て、お粥を食べたお陰かちょっと体調の回復した廉はそう言ってベッドから下りようとした。

「俺は別に迷惑とか思ってないし、風邪が移ったら移ったでそれが廉からのものなら気にしねぇよ」

ベッドから下りようとした廉を押し留め、ベッドに戻す。

「どうしても俺ん家が嫌だってんならお前ん家行って俺が看病してやるけど、どうする?」

「ぅ、それじゃ意味ないじゃん」

ジロッと文句を言いたげに廉は睨んできたけど、俺から見たらそれは可愛いだけだった。

「分かったら大人しく寝ろ」

ぽんぽんと布団を軽く叩いて笑いかける。

「むぅ。…移っても知らないからな」

フイ、と俺に背を向けて布団に潜り込んだ廉に俺は苦笑した。

なんでお前はそう可愛いことするかな。

すぅすぅ聞こえる規則正しい寝息に薬が効いてきたか、と一つため息を落とした。

「まったく変な所で気ぃ遣いやがって」

誰もいない家になんか帰せるわけないだろ。

「早く治せよ」

布団から出ている黒髪をさらりと撫でて、小さく呟いた。



◇◆◇



「んっ…」

眩しさを感じて目を開けると見慣れぬ天井。

「……?」

あ、そっか。ここ工藤ん家だ。

薬を飲んで一晩寝たおかげか、ダルくもないし体調は回復したみたいだ。

よいしょ、と体を起こしてみると部屋の主の姿はなかった。

「どこ行ったんだろ?」

ベッドから下りて、何となく工藤の姿を探した。

「工藤?」

かくして、その姿はリビングにあった。

工藤はリビングのソファーに身を沈め、眠っているようだった。

もしかして俺が工藤のベッド占領してたからか?

俺は工藤を起こさないよう静かにソファーに近よった。

こういう場合ごめんよりありがとうだよな。

「…ありがと、工藤」

「どーいたしまして」

「え!?工藤、起きて!?」

寝ていると思った人物から返事が返ってきて俺はびっくりした。

工藤は上半身を起こすと俺にちょっと屈め、と言って手を伸ばしてきた。

「なに?」

その手は俺の前髪を掻き上げて額にあてられた。

「熱は下がったな」

「あ、うん。もう平気。だるくもないし」

心配したってのが言葉の端々から伝わってきて、俺はちょっと照れ臭くて視線を床に落とした。

「そうか、良かったな」

「うん」

額に触れていた手は、さらりと前髪を撫でて離れていった。

「ところで、今日は何か予定あるのか?」

「特に無いけど…」

「それなら、今日一日廉は俺だけのものな」

なんだよそれ?と思って顔を上げたら、こっちが恥ずかしくなるぐらい優しい瞳をした工藤がいた。

「……ぅ///」

「いいよな?」

俺は赤くなっているだろう顔を隠すためにコクリ、と頷いた。

「よし。じゃ、朝食は二人分で…廉なんか食べたいものあるか?」









そして、その日一日、工藤だけのモノになった俺は散々甘やかされてどうしようもない気持ちに陥ることとなる。

ふわふわして、ぬるま湯に浸かっているようにどこまでも心地好い。

風邪とは違う熱に浮かされる、

この気持ちはなんだろう―?





END.

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